exhibition
佐藤ちえ Chie Sato

美の
佐藤千恵×押味忠志二人展
2026.10.10 - 10.25
『美の』 佐藤千恵/押味忠志 二人展 によせて
佐藤千恵(陶芸)
何故、陶芸か。何故、土か。
私は表現の素材を土と決めて、主にオブジェを制作している。土は地球からの贈り物と思っている。その地球からの贈り物を使ってしばし遊ばせてもらっていると思っているのである。粘土は何百年、何千年、或いは何万年、それ以上の長い年月を経て自然が作り上げたものであり、地層などの美しさは到底、私の表現が追いつけるようなものでは無い。焼成の温度も数千度のマグマのそれから見たら私は1250度程度、また、信楽の大きな薪窯を1ヶ月間焚き続けたと聞いたこともあるが、それも地球のやっている土の成り立ちには全く敵わない。人が長生きをして例えば90歳まで現役で活動ができたとしてもせいぜい60年か70年ほどの作家人生の中でいったいどれだけのものが焼けるのか、と思っている。
それでも、私自身の手の中で形が出来て乾燥、焼成を細心の注意を払って“こと”にあたるとそれなりのものが目の前に現れる。できるだけ、本物の土の持つ力やエネルギーをそのままに表現したいと試みている。自然の営みが作り上げたものに近づきたいと表現を模索しているのだ。地球はそんな私を笑っているかもしれない。
そもそも人間は動物の一つの種にすぎない。多くの動物がそうである様に自然界の中でうまく順応、循環して生きている。環境が変われば生き物が場所を変えたり、体の仕組みを変えたりして種を繋いでいく。私たちも基本的には同じはずだ。人工的なものばかりの中に暮らすと息がつまり、なかなか息苦しい。現代人は慣れてしまっているのだけれど、実は呼吸が本来のそれより浅いのでは無いかと思っている。私の作品から、もし土の持つ本来のエネルギーを感じることができ、ほんの一瞬でもその場に立って深呼吸することができたなら、と願って作品を作っている。
もう一つ私が土を素材にする理由がある。土には包容力があって、触れていると心地が良く、様々なことを忘れて没頭していける。どんな人にでも扱えてすんなり受け入れてくれるのだ。私の手の素材への関わりがダイレクトに反映される。さらに乾燥と焼成の工程を持てば、ずっと残るものとしての価値さえ出てくる。だから逆に変なものは残せないなと思っている。古墳時代の埴輪や平安時代の三筋壺がそのまま地中から出てきたように私の焼いたものが何年も後になって掘り出されるかもしれない。環境への配慮を目指す現代において実は焼き物はとても厄介なタイプのもので、一度焼いたらリサイクルは効かない。ずっと残り続けるのだ。なおさら余計にいい加減な思いで土を焼いては駄目だと思っている。私は昨日まで土に埋まっていたかのような時空を超えてくる焼き物を焼きたいと想っている。土の包容力に包まれた私が、作品で誰かを暖かく包み込めるとしたら、それこそがある意味の循環型社会の創造なのかもしれない。
二人展『美の』
ギャラリー水の音は、岐阜市の城下町にある。すぐ近くに岐阜城、長良川もあってとても自然豊かでゆったりとした街並みの古民家ギャラリーである。この辺りは戦国時代に金華山の麓に武家屋敷、寺社地、町人地が計画的に配置された戦国城下町と歴史書にも書かれている。その雄大な自然と人々の営みが無理なく共存しているところが好きだ。元々、都会のホワイトキューブに呼ばれるより、古民家の風情の方が落ち着くのでお話をいただいた時、とても嬉しかった。この岐阜の街並みやオーナーさんのお人柄、ギャラリーの雰囲気に合う形を見つけたいと思った。
私の暮らしは愛知の常滑にあって、岐阜からは長良川の南下の先、伊勢湾に出るところまでと繋がっている。私と岐阜を繋げるものに長良川があった。長良川は木曽三川の中でもダムが本流にないことから、“清流”と呼ばれている。そして、この美しい流れの中に多くの歴史があり、人々を支えてきた物語があるのだと思った。
ここにくる前に実は、海に流れ着いた流木に着目した“海を渡る”というテーマの展示をしていた。私は、そうか、常滑の浜に流れ着いた流木は長良川から伊勢湾にたどり着いたものもあったのだと、今回気づいた。前回の展示では、島国日本から、外の世界を想って旅に出た船やさらには難民を乗せて紛争地を出る過酷な船旅のことを考える、という世界情勢に対してのメッセージ性の強いインスタレーションであった。ここ水の音でのテーマは、長い岐阜の歴史と長良川の豊かな自然と共に暮らしてきた城下町の人々の営みに思いを馳せるものにしたいと思った。その美しい風土と人々の暮らしを思うものである。つまりそれは、この地で長らくギャラリーを営んでこられたオーナーご夫妻の暖かな少し愉快な掛け合いの日常に私が癒されて、このお話を進めるごとにこちらに集まる人たちがいかにこの場所を好んでいるか、どんどん理解していった、そんな気持ちがもとになっている。
いくつかの地方芸術祭に近年参加させて頂いているが、どこに展示に行ってもその地の人たちが暖かく作家を迎えてくれた。私の伝えたいことを一方的に表すのではあるが、その場所、その地域の人たちに喜んでもらえるもの、理解してもらえるものを表現したいといつも願ってきた。今回は、とてもアットホームなごく小さな、でも懐の深い歴史を感じるこのギャラリー水の音では、私の私的な、そして多くの人々にも共通な日常や自然への思いを表す場にしたいと思う。また、出会わせて頂いた画家、押味忠志氏からは学ことが多くて感謝している。画業への姿勢、描くということに真摯に向き合ってこられている押味さんにはたくさんの影響を受けた。ありがたいことであったとともにご一緒して響きあうかどうかの挑戦であり緊張感のある準備期間であった。ここまで来るまでに折に触れ、オーナーさんのアドバイスが私を支えてくれたのは言うまでも無い。
【 略歴 】
常滑市に生まれる
2022-現在 愛知県立芸術大学非常勤講師
2025-現在 愛知県立大学、名古屋芸術大学非常勤講師
陶歴等
2013
第31回常滑陶芸展 自由陶芸部門長三賞
2015
第48回女流陶芸展 京都市長賞
2016
第49回女流陶芸展 新人賞
2018
第1回 ぎふ美術展工芸部門 優秀賞
2019
京畿道世界陶磁ビエンナーレ 300アーティスト選定(韓国)
2021
第55回女流陶芸展 京都府知事賞
2025
第5回 瀬戸・藤四郎トリエンナーレ 審査員特別賞
COCA PUROJECT 2024-2025 2ed selection 選出(イタリア)
2026
第7回 ぎふ美術展工芸部門 奨励賞
展覧会等
2013
初個展「佐藤千恵個展 -優しい形-」スペース・アクア 刈谷市
2021
K C D A韓国陶磁デザイン協会国際交流展 韓国京畿道
2022
「Art & これからの陶・常滑」グループ展 ギャラリーリン常滑
(国際芸術祭あいち2022パートナーシップ事業)
2023
済州日韓中交流展 韓国済州島
2025
大野芸術祭 常滑市
小原瀬戸芸術祭2025 「空の壺、海の壺」瀬戸市・豊田市
「陶のアートと平和を考える」シンポジウム
( 国際芸術祭あいち2025 パートナーシップ事業)
2026
「海を渡る」佐藤千恵&Tripedarhythm インスタレーション
ギャラリー・ノコギリニ(一宮市)
「 Rewrite 」Japonica-Japonica in Tokyo 東京芸術劇場 池袋
「美の」佐藤千恵/押味忠志 二人展 ギャラリー水の音 岐阜市






